馬の余生を支える手と、冬の寒さに向き合う背中。
ホースケアの現場が求める本当の装備。

───── ホースケアワーカー 大橋和明

うちはいわゆる養老牧場で、役目を終えた馬たちが穏やかに余生を過ごす場所だ。

大橋和明が管理する牧場には、高齢の馬が多く預けられている。人間でいえば老人ホームに近い役割を担う場所であり、引退後の馬が安心して余生を過ごせる時間と環境を整えることが最初の使命になる。年齢を重ねた馬は筋力や代謝が落ち、気温や湿度、飼料の変化といった些細な要因にも体調を左右されやすい。だからこそ日々のケアは単なる作業ではなく、馬一頭ごとの状態に合わせて調整し続ける細やかな観察が欠かせない。馬の生活の質を守るためには、環境管理と健康管理を地道に積み重ねることが何より重要になる。

高齢馬は免疫力が低下し、感染症にもかかりやすくなるため、健康管理が最優先の仕事になる。

食事の量や質、体調の変化、わずかな行動の違いも見逃さずに管理する必要がある。馬は体が大きい分、調子を崩すと回復に時間がかかる。人間と同じように加齢による弱り方が明確に表れるため、日常のケアがそのまま馬の寿命に直結していく。

寒冷地ならではの厳しい気温は、馬にも作業者にも大きな負担となる。

冬場には外気がマイナス10度近くまで下がることもあり、大橋は厳しい寒さの中で防寒を整えながら毎日外作業をこなす。それでも雪山装備のように重ね着をしてしまうと、馬の世話で常に身体を動かすためすぐに汗をかき、その汗が冷えて一気に体温を奪っていく。寒さを防ぎつつ、動きながら生まれる熱をどう逃がすか。その両立は簡単ではなく、作業効率にも健康にも影響するため、冬のホースケアでは避けて通れない大きな課題になっている。

馬と接する環境では、防寒性だけでなく“噛まれても破れない強さ”が重要になる。

羽毛入りの軽く柔らかいウェアは、防寒性には優れる一方で、生地そのものが繊細なつくりになっているものも多い。馬は人懐こさから服を軽く噛んでしまうことがあり、そのわずかな力でも簡単に裂けてしまうことがある。いったん破れれば中の羽毛が飛び出し、補修しても強度が戻らず、実質的に使えなくなる。現場では防寒性・耐久性・動きやすさの三つが同時に求められるが、この条件をすべて満たすウェアは驚くほど少なく、作業者はいつも妥協と工夫の中で装備を選ばざるを得なかった。

動きやすさと丈夫さを両立させるのは難しく、大橋は毎冬のようにウェアを潰してきた。

馬の世話は屈伸や移動が多く、さらに馬房の出入りや馬具の調整などで柵や金具との接触も避けられない。冬物ウェアはどうしても厚みが出るため、動きの最中に生地が引っかかったり、硬さによって無理な力が加わったりして破損しやすい。牧場の仕事は派手に走り回るようなものではないが、細かな姿勢変化や繰り返しの作業が多く、それが積み重なってウェアに負荷を与える。結果として、冬の終わりには生地が擦れたり綿が潰れたりし、買い替えが必要になるのが当たり前になっていた。

その中で今回のウェアは、大橋が長年求めていた要素を満たしていた。

軽く動きやすいのに、表面が柔らかすぎず破れにくい。馬との距離が近い作業でも安心でき、負担なく一日を通して着続けられる。保温性も確保されており、作業中の汗による不快感も抑えられるという。単なる防寒着ではなく、牧場の現場に適した“道具”として機能していた。

馬の世話は体を使う仕事であり、外気温と運動量の差をどう扱うかが課題になる。

寒い屋外で作業しつつ、体を動かせばすぐに発熱する。重ね着は動きにくさを生み、薄着では寒さが勝つ。大橋が語る「すぐ汗をかく」という状況は、ホースケアワーカー特有のものだ。防寒と通気を両立したウェアがないと、一日の作業の終わりには疲労が大きく蓄積する。

「欲しかったものがようやく形になった」──大橋の言葉には現場の実感があった。

これまで理想に近いウェアを探し続けながら、毎冬買い替えるのが当たり前だった。高齢馬と向き合う牧場の仕事は、力仕事だけでなく繊細な観察も求められる。その中で装備のストレスが減ることは、馬にも人にも良い影響をもたらす。現場の声に即したウェアが、ようやく日常の負担を軽減してくれたのだと感じられた。